記録

【MIYAJIMA_PEOPLE_vol.1】「宮島なら、もっとすごいことができる」――デザイナーから牡蠣屋に転身。年齢を重ねて生まれた郷土愛/大前万象さん[牡蠣屋株式会社・ゲブラ株式会社 代表取締役]

#クラフトビール・ビール #宮島名物 #広島レモン #建築 #歴史 #牡蠣 #絶景

宮島で暮らす人、働く人、ものをつくる人。
この島には、それぞれの立場から宮島を見つめ、日々を重ねている人たちがいます。

観光で訪れるだけでは見えてこない風景。
島にいるからこそ感じる変化。
これからも残したいもの、新しくつくっていきたいもの。

島を想い、島をつくる人に聞くインタビューシリーズ「MIYAJIMA PEOPLE」。
第一回のゲストは、牡蠣屋株式会社・ゲブラ株式会社代表取締役の大前万象さんです。

大前万象さん

宮島対岸の廿日市市生まれ。東京の広告代理店に就職後、2008年、宮島で「牡蠣屋」をオープン。その後、島内に4店舗を展開するドリンクバー「GEBURA」や絶景古民家カフェ「牡蠣祝」などを開業している。「GEBURA」では宮島のゴミ問題軽減のため、はじめに提供されたカップを持参すれば、200円でお代わりできるシステムを導入して話題を呼んだ。進化し続ける宮島を第一線で率いてきた大前氏に、店舗運営の経緯や宮島への思いを聞いた。

東京のオイスターバーブームに直面し
「宮島なら、もっとすごいことができる」と確信

──宮島に出店した経緯を教えてください。

東京でデザイナーとして仕事をしていたとき、都内でオイスターバーブームが起こったんです。流行っていたので私も行きましたが、宮島を知る者としては違和感を覚えました。叔父が宮島の店で牡蠣を焼いていたので、私も幼い頃から手伝いに行き、何度も宮島の牡蠣を食べていたのです。だからこそ、「宮島なら、もっとすごいことができる」と確信し、広島に戻ることを決めました。

鮮度と作りたてにこだわる牡蠣専門店
「牡蠣屋」を表参道商店街にオープン

表参道商店街にあった倉庫を宮島在住の建築士、中本一哉さんに改装してもらい、牡蠣専門の「牡蠣屋」をオープンしました。私は料理人出身ではないですが、牡蠣に関しては自信がありました。牡蠣は水揚げされたばかりの新鮮なものを強火で焼いて、すぐに食べるのが一番旨い。それを徹底すれば、絶対にうまくいくと思っていました。

ただ、当時の宮島には牡蠣専門店はなかったので、母や叔父には「うどんとカレーは出さないと」「あなご丼を出せばいいのに」と、しょっちゅう言われていました(笑)。実際に、最初の数カ月から1年くらいは、お客様がほとんど入らなかったんですよ。当時から爆発的にヒットしていた揚げもみじの仕掛け人である、紅葉堂の竹内社長が「最初から売れるわけじゃないから、大丈夫」と励ましてくださって、救われましたね。

「牡蠣屋」では、現在でも牡蠣料理のみを提供


フリーペーパーへの出稿で店が好転
海と五重塔を見下ろす絶景カフェが話題に

──何が転機となったのでしょうか?

店の状況が大きく変わることになったきっかけが、フリーペーパーへの出稿でした。デザイン経験を生かして、自分で写真にもこだわり、限定の定食をつくって提供したんです。すると、びっくりするくらいの反響があり、多くのお客様に来ていただけるようになりました。1996年に宮島が世界遺産に登録され、静かだった宮島にちょうど来島者が増えてきた頃のことで、とても幸運だったと思います。

ただ、牡蠣って結構、扱うのが大変なんです。私もシーズン初めの生牡蠣が大好きですし、とても魅力的な食材ですが、一方で殻が重くて処理が大変だったり、仕入れも安定しにくかったりして、考えなければいけないことが多い。だから、同じ形態の「牡蠣屋」を増やそうとは考えませんでした。2014年に出店した「牡蠣祝」は、同じ牡蠣でも、お土産にできる牡蠣のオイル漬けをメインとしています。フルリノベーションした古民家の雰囲気と、瀬戸内海と五重塔が見渡す絶景が自慢の店です。

「牡蠣祝」

「GEBURA」名物・レモンソーダの
前身となった、かき氷が大ヒット!

──大前さんといえば、宮島で広島レモンをいち早く取り入れたことも印象的です。

レモンは牡蠣にかけるので、常に仕入れていたんです。当時は海外産のレモンだったのですが、あるときから広島のレモンに変えました。このレモンをシロップ漬けにして、当時は珍しかったふわふわの氷にかけたかき氷が、「牡蠣屋」で人気となりました。私はおばあちゃんっ子で、昔から果物や梅を漬けるのが好きだったんですよね。かき氷は一日何百食、花火大会の日には何千食と出るようになったのですが、氷を削るのが大変で、スタッフが腱鞘炎になってしまったんですよ。

そこで、自家製のレモンシロップを炭酸で割ったドリンクを出すことにしたんです。ミントを加えて、広島レモンモヒートも作ったところ、お客様がSNSで広めてくださり、人気に火がつきました。そこで、ドリンクを出すために他に店舗を借りることにしたんです。


カップを繰り返し使えるシステムで
宮島のゴミ問題に取り組む

──2017年にオープンさせた「GEBURA」では、最初に提供したカップを持参すると、200円でお代わりができるというシステムも画期的でした。

私がこのシステムを考えたきっかけは、宮島のゴミ問題です。ゴミは基本的に各店で対処していて、うちでも桟橋から宮島水族館まで、専任のアルバイトの方に拾ってもらっています。お客様が商品をシカに取られてしまって、取り返せなかったものがゴミになる場合もあり、課題になっていました。このシステムがあれば、お客様が「GEBURA」各店でお代わりしながら休憩できるので、便利にご利用いただけると思います。

宮島は厳島神社の建築と自然のすばらしさに加えて、島を散策しながらさまざまな「食」を楽しめるのが魅力です。これをサステナブルな仕組みにするために、少しでも貢献できたらと思っています。

「GEBURA」

盟友と共に、これからの宮島を思う日々

──先日は、宮島の観光協会の理事に就任されたそうですね。

若い頃は島のコミュニティに参加する余裕がなかったのですが、お世話になっている紅葉堂の竹内さんに「そろそろ、そういうことも考えないと」と言われて、気持ちを入れ替えることにしました。観光協会の理事に就任したのもそのためです。今は「牡蠣屋」と「牡蠣祝」、「GEBURA」のほかに、宮島で複数のカフェを出している伊都岐珈琲の佐々木社長と一緒にカフェも2店舗運営しているのですが、佐々木さんは本当に面白い人で、盟友のような存在です。私や佐々木さん、建築士の中本さんの世代が、まだまだ率先して面白いことをやって、新しく宮島に参入する若い人たちに興味を持ってもらえたらいいですね。

宮島はポテンシャルの高い場所で、新しく挑戦する人たちも増えています。外から来ると、馴染めないんじゃないかと心配する人もいるかもしれませんが、もし何か行き違いがあっても、宮島の人はカラッとしていて、引きずらないんです。あまり気にしないで、同じ島の人間だと思って励めばいいんじゃないかと思いますね。


日の出前の静かな宮島にリセットされる

──最後に、宮島の好きなところを教えてください。

昔はそうでもなかったのですが、年齢を重ねると共に、宮島に対して郷土愛のようなものが生まれてきたような気がします。うまく言葉に表現できないのですが、宮島行きのフェリーに乗るとき、「やっぱり宮島っていいな」と温かい気持ちになるんです。日中はおかげさまで観光のお客様で賑わっていますが、私が好きなのは朝5時頃の静かな宮島です。日が昇る前の鏡面のような海に、鳥居が建っている様子を見ると、昔の人々が築き上げてきた宮島の良さを感じます。毎朝5時に全店をまわるのが、私にとっては、心身がリセットされる大切な時間です。

「牡蠣屋」「牡蠣祝」「GEBURA」など、各系列店舗で無料配布している宮島の観光案内図。使用されているイラストはすべて大前さんが描いたもの
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RIE NAKAJIMA

ライター。幼少期を千葉、新潟、大阪などで過ごし、東京や海外を放浪した末、夫の故郷である広島県廿日市市に流れ着く。曾祖母は宮島の人だったらしく、「戻ってきた」と言えなくもない、と思っている。趣味は娘との猫カフェ訪問とスイーツ食べ歩き。